2024年12月3日火曜日

靴紐が結べない女10

 翌週の土曜日、加奈子はあの駅に再び足を運んだ。お婆さんに会うという目的もあったが、もう一つ心に引っかかることがあった。それは、あの日会った駅員の存在だった。


名前も知らないその駅員。どこか落ち着いた物腰で、頼りがいのある雰囲気を持った彼の言葉が妙に心に残っていた。「もしかして、また会えるかもしれない…」という淡い期待を胸に、加奈子はその駅に向かう電車に乗った。


駅に到着すると、加奈子はホームを見渡しながら少し緊張していた。駅員さんがいるのかどうかも分からないし、そもそもどんな顔だったかはっきり覚えているわけでもない。ただ、あの時の温かい声と柔らかな笑顔だけがぼんやりと脳裏に浮かぶ。


しばらく駅構内を歩き回ったが、それらしい姿は見当たらない。「やっぱり、会えないか…」少し諦めかけたその時だった。待合室の方向から、あの声が聞こえてきた。


「お婆さん、今日もお出かけですか?」


加奈子が振り返ると、そこにはお婆さんと、あの駅員が立っていた。お婆さんは手押し車を押しながら何やら楽しそうに話している。加奈子は思わず声をかけた。


「あの、こんにちは!」


駅員とお婆さんが同時に振り向く。駅員は少し驚いたようだが、すぐに穏やかな表情になった。「あ、先日のお客様ですね。お婆さんに会いに来られたんですか?」


加奈子は少し照れくさそうに頷いた。「はい、お婆さんに改めてお話を聞きたいと思って…それに、あの日のお礼も言いたくて。」


お婆さんは加奈子の顔を見て、嬉しそうに微笑んだ。「まあ、また会えて嬉しいわ。あなた、やっぱりあの子にそっくりね。」


「あの子って…誰のことですか?」加奈子はお婆さんに尋ねた。


お婆さんは少し遠くを見るような目をして、「私の長女よ。昔、家を出て行ったきりでね…」と呟いた。


駅員がそれを聞いて、「お婆さん、今日はどちらへ行かれる予定ですか?」とさりげなく話題を変えた。そして加奈子の方を向き、「よければお話を聞くついでに、僕と一緒にお婆さんを病院まで送っていただけませんか?」と提案した。


加奈子は少し驚いたが、その申し出に自然とうなずいていた。「はい、ぜひ。」


三人で駅を出発し、病院へ向かう道中、加奈子は少しずつ駅員と会話を交わした。名前は田中涼介と言い、この駅で勤務し始めてまだ一年ほどだという。穏やかで優しい口調に加奈子の緊張もほぐれていき、いつの間にか二人は笑顔で話していた。


病院に到着し、お婆さんを受付まで送り届けたあと、加奈子と涼介は病院の近くのカフェに立ち寄った。お互いのことを話しながら、加奈子はふと感じた。涼介の存在が、自分の中で少し特別になり始めていると。


「それにしても、あなたがこんなに親切にしてくださるとは思っていませんでした。」加奈子がそう言うと、涼介は少し照れくさそうに笑った。


「いや、加奈子さんがあの日お婆さんに親切にしてくれたからですよ。僕はただ、それを引き継いだだけです。」


そんな涼介の言葉に、加奈子の胸が少し温かくなる。

靴紐の結べない女9

 加奈子は帰り道、心の中でお婆さんの顔を思い浮かべながら歩いていた。お婆さんの「あなた誰かに似ているね」という言葉が何度も繰り返し浮かんでは消えていく。それがただの思い違いだったのか、それとももっと深い意味があったのか…その答えが気になって仕方なかった。


家に帰ってからも、そのことを考え続けていた。もし自分が何か手助けできたのなら、もっとお婆さんと話すべきだったのではないか、後悔の気持ちも湧いてきた。しかし、加奈子は自分の仕事や日常に追われているうちに、その思いは少しずつ薄れていった。


数日後の週末、加奈子はふと思い立って再びその駅を訪れることにした。お婆さんがどこかで見かけたことがあるかもしれないと思ったからだ。駅に到着した加奈子は、あの混雑した朝のことが昨日のことのように鮮明に思い出される。


加奈子が改札を抜けて、待合室に向かうと、そこで一人の男性が立っていた。彼は、加奈子が以前お婆さんを手助けした時に見かけた駅員の一人だった。加奈子は声をかけてみた。


「こんにちは、覚えてますか? あの時、お婆さんを駅員さんに預けた者ですが…」


駅員は少し驚いた様子で加奈子を見た後、微笑んだ。「ああ、あの時のお客様ですね。お婆さん、無事に病院へ行けたようですよ。」


加奈子は安心して頷いたが、ふと気になって尋ねた。「実は、お婆さんが『誰かに似ている』って言ったことが気になっていて…それって、もしかして、何か心当たりがあったりしますか?」


駅員は少し考え込んだ後、「実は、あの方、ご近所でもちょっと有名な方なんです。昔から顔立ちがよく、どこかで見たような顔だと言われることが多かったらしいんですよ。」と答えた。


加奈子は驚いた。「本当に、似ている人がいるんですか?」


「そうですね…でも、あのお婆さんが言っていたのは、もしかしたら『誰かに似ている』というよりも、何か過去の記憶がフラッシュバックしたのかもしれません。」駅員は続けた。「あの方、実は若いころに大きな事故に遭ったことがあって、長い間入院していたんです。その時、記憶が少し曖昧になった部分もあるんですよ。」


加奈子はその話を聞いて、ますますお婆さんが気になった。「もしかして、記憶の中で誰かと似たような顔を思い出したのかもしれませんね。」


駅員は頷きながら、「そうかもしれませんね。でも、お婆さんが本当に似ていると感じたのは加奈子さんに何かしらの共通点を感じたからかもしれませんよ。」と言った。


その瞬間、加奈子は何か大きな意味を感じた。お婆さんの言葉は単なる偶然の一言ではなく、何か深い繋がりを感じさせるものだったのかもしれない。その後、加奈子は駅員にお礼を言い、駅を後にした。


帰宅後、加奈子はその日見た駅員の言葉を心に刻みながら、自分にとって本当に大切なことは何か、そして「似ている」という言葉が持つ意味について考え続けた。


翌週、加奈子は再びその駅に向かうことを決めた。お婆さんとの繋がりを確かめるために。

靴紐の結べない女8

加奈子は不意にお婆さんの言葉に戸惑った。

「私に似てる…?誰にですか?」

思わず繰り返すと、お婆さんは目を細めて遠くを見るような視線を浮かべた。


「昔の友達よ。若い頃にね、一緒に働いていた人。彼女も電車通勤をしていて、いつも靴紐を結び直していたのよ。あなたを見ていて、思い出したの。」


加奈子は驚いた。靴紐のエピソードまで一致するなんて、そんな偶然があるものだろうか。お婆さんはふと微笑み、続けた。


加奈子は恵子の声にハッと我に返り、すぐに会議の準備を整えたが、頭の中でお婆さんの言葉が繰り返し響いていた。「あなた誰かに似ているね。」その言葉の背後に何か不思議なものを感じていた。しかし、今は会議が始まる時間だ。心を切り替え、加奈子は恵子とともに会議室へと向かう。


会議が始まると、加奈子は頭を仕事に集中させようと必死だった。しかし、どうしてもお婆さんのことが気になってしまう。恵子の冗談や同僚たちの話も耳に入らず、彼女の顔が浮かんでは消え、そしてその「誰かに似ているね」の一言が頭を離れなかった。


「加奈子、何考えてるの? 彼氏でも見つけた?」恵子がパスタを口にしながらからかうように言った。


「うーん、今朝ね、出勤途中で電車で…」


「えっ! いい男でも見つけたの?」恵子が目を輝かせて尋ねる。


「いや、それが…お婆さんとぶつかったのよ。」


「なーんだ、それだけか。」恵子は肩をすくめると、ちょっとした冗談を言った。「でも、それが気になるってわけね?」


加奈子は真剣に答える。「うん、それがね、どうも気になるんだよ。お婆さんが言ってた『あなた誰かに似ているね』って。」


恵子は一瞬黙った後、にっこり笑いながら言った。「それ、私が言ったように、タレントの⚪️⚪️に似てるからじゃないの?」


加奈子はすぐに首を振った。「違う、⚪️⚪️には似てないよ。なんかもっと、何て言うか…自然な感じで、親しみやすい顔なんだ。」


恵子は興味深そうに加奈子を見つめる。「へえ、それってどんな顔?」


加奈子は少し考えてから、「うーん…どこかで見たような、でも思い出せない顔。なんだか、すごく懐かしい気がするんだよね。」


恵子が笑いながら言った。「世界には同じ顔の人が三人いるって言うし、ただの他人の空似ってやつじゃない?」


加奈子は少し困ったように答えた。「そうかもしれないけど、なんか引っかかるんだよね。それに、あのお婆さん、顔立ちがすごく品があって、どこかで見た気がするんだよ。」


恵子は面白そうに加奈子を見ながら、冗談めかして言った。「それって、加奈子が無意識にお婆さんに似てるんじゃない? ほら、加奈子も優しくて品があるし。」


加奈子は恵子の言葉に苦笑いしながらも、「いや、そんなことないと思う。でも、気になるな…もしかして、私も何かの縁でそのお婆さんと関わることになるのかな?」と、ふと思った。


恵子がにやりと笑いながら言う。「それより、お婆さん、怪我しなかったの?」


加奈子は少し顔を曇らせて答えた。「うーん、今朝は大丈夫だったらしいけど、駅員さんに預けてきたから、その後どうなったかはわからない。ちょっと気になるな、私も一度お詫びに行こうかな?」


恵子は考え込んだ後、真剣に言った。「行った方がいいかもね。もしかしたら、何か他にも気づくことがあるかもしれないし。」


加奈子は頷きながら、「そうだね、行ってみよう。何かの偶然かもしれないけど、気になるから。」


会議が終わると、加奈子はすぐに会社を後にした。心の中でお婆さんのことがずっと引っかかっていた。もしかしたら、自分がそのお婆さんに何かできることがあるのかもしれない。それを確かめるためにも、もう一度お婆さんに会いに行こうと決意した。


そして、その日、加奈子はふとした思いを胸に、また新たな出会いに向けて歩き出すのであった。


ヘナジージョギング

 朝飯、昼飯と遅く食べたせいか昼は焼肉だけでジョギングへ、腹一杯だったのにジョギング5km程でエネルギーが枯渇、ヘナヘナ状態、肉だけじゃダメなんです。炭水化物を摂らないとエネルギーにならない事がよく分かりました。




2024年12月2日月曜日

12月初ウォーク

 もう12月に入り2日、早いですね〜今日は小春日和で室内はタンクトップでいいくらい暖かかった、さすがに外は長袖でしたが汗ばむ気温、冬野菜を一部収穫。わさび菜、小松菜、レタス。




2024年12月1日日曜日

デッキの防腐剤塗布

 縁側のウッドデッキ、妹夫婦に作って貰って1年半、そろそろ色褪せて来たんです。そのうち腐って来るかシロアリが来るので防腐剤を塗ってみました、かなり前から防腐剤は準備していたのですが中々大変なので足踏みしてました。ようやく暇も出来たので塗りました。パーゴラのテーブルもついでに塗布2時間のつもりが3時間もかかりました。